目次
サウンドデュエラー猛(毎週月曜更新)
決闘(デュエル)前編
決闘(デュエル)後編
サクラノ扉(ゲート)前編
サクラノ扉(ゲート)後編
ガンマニアックス2 前編
ガンマニアックス2 後編
幻のディスクを手に入れろ! 前編
サウンドデュエル(完結済)
宿敵(ライバル)前編
宿敵(ライバル)後編
幻のディスクを手に入れろ! 前編
「タケルくん。今ネットが凄いことになってるよ」
3人は行き着けの【中古CDショップGO!】でいつものようにたむろしていた。
店長は80年代当時サウンドデュエラーとして第一線で活躍していた経歴を持ち、デュエルのことなら何でも知っている知恵袋的な存在。
「何が凄いことになってるんすか店長?」
爪をかじりながら画面を食い入るように見つめる店長にタケルが質問する。
「これから始まるみたいだよ」
店長がノートPCを3人に向ける。
そこには海座財閥の総帥、海座ことDJカイザーが動画投稿サイトYoTubeにアップで写っていた。
海座財閥はオンライン・デュエルシステム【サウンドデュエル・オンライン】及びデュエルの勝敗を決める審判システム、【ジャッジメント】の開発、運営を手がけるメガ企業。
「全世界のサウンドデュエラーに告ぐ!」
「我らはサウンドデュエル界のさらなる発展に尽力を尽くすため、アルティメット・デュエル・コンペティションの開催をここに宣言する!」
「優勝者には賞金100万円と【ギョロちゃん】の主題歌【ハレ晴れサマー】を進呈する。大会の開催地は【ネオさいたまコロシアム】!」
「ポイントの集計期間は1ヵ月。この放送終了後、サウンドデュエル・オンライン公式サイト内に特設サイトを開設し上位20組が本戦に参加する資格を有するものとする。参加に個人団体は問わない」
「サウンドデュエラーよ、来る決闘(デュエル)に備えよ!」
DJカイザーが発信した衝撃的なニュースは一瞬で全世界をかけめぐり、すでにTVでも緊急特番として取り上げ始めている。
「優勝者にはハレ晴れサマー。。。流石、海座財閥。規模が違うな~」
店長が腕組みをしてうなる。
ハレ晴れサマーとはスナック菓子のPRとして放送されたアニメ、ギョロちゃんの主題歌。
当時このアニメは全く人気が出ずこの主題歌となるディスクはお菓子の景品用に10枚のみ生産され応募者にプレゼントされた。
だがその後、この主題歌を手がけたプロデューサー【つんぼ(´・ω・`)】とそのユニット【カカオ娘。】が世界的に大ブレイク。
販売を望む声が多い中、さまざまな利権がからんだ大人の事情で販売は実現されずハレ晴れサマーは幻の名曲としてサウンドデュエラーの間で語り継がれている。
”アニソン界のストラディバリウス”と言われるこのディスクは過去に一度だけインターネットオークションサイト【Yahhoオークション】に出品されたことがあり海座財閥が落札。
未開封の新品だったたことも影響し価格は高騰。落札価格はヤホオク史上最高額を叩き出した。
海座財閥は3枚このディスクを所有しており、残りはアラブの石油王や各国の財閥が所有している。
「このディスクは国宝級だからね。このディスク1枚で働かなくても一生安泰に暮らせるよ」
店長が壮大なロマンを語る。
「すげーな!こりゃあ出るしかねーぜ!」
「少佐、メガネ!」
タケルが2人に決意を固めた熱い視線を送る。
「うん!やろう」
「異存はない」
「よっしゃー!かっとビングだぜ俺たち!!」
つづく
タケルはDJミックスがあまり得意ではないため、メガネと選曲のサポートに回り、ゴッドフィンガーの異名を持つ少佐がDJ役としてサウンドデュエル・オンラインでポイントを稼いだ。
そして集計発表当日、本戦への招待状(インビテーション)がタケルらの元に届く。
次回、幻のディスクを手にするべく世界中から強豪デュエラーが集まる超大型デュエルイベント、アルティメット・デュエル・コンペティションの幕が切って落とされる!
ガンマニアックス2 後編
―大会当日―
タケル、メガネ、少佐の3人は会場内に整然と並ぶ筐体のすき間に身を潜めている。
「ハァ、ハァ…、何がどうなってんだ一体!」
「シッ!大声を出すなタケル。奴らに気づかれるぞ」
意味不明な状況にパニックに陥りそうになっているタケルを少佐が制する。
大会の会場であった東京びっ臭いと東4ホールはなぜか大量のゾンビで溢れ返り地獄絵図と化していた。
助けてくれー!!グァーッッ!!!
ギャーーーーー!!!!
ヒィィィーーー!!!!!
あちらこちらでゾンビに襲われた人間の阿鼻絶叫が鳴りひびく。
「ここにいても危険だ。ともかく脱出しよう。周囲の安全を確認する。」
少佐が筐体から慎重に顔を出し、近くにゾンビがいないか確認する。
「大丈夫だ。行くぞ」
少佐の後を続く形で3人は筐体のすき間から出て、近くの筐体に移動する。
できることなら一足に出口に向って駆け出したい所だがうようよいるゾンビに見つからないよう移動せねばならないため思うように前に進めない。
移動した筐体のすき間にしゃがみ込むと通路に足をおさえ苦しそうにしながら横たわっている男と目が合った。
「た、助けてくれ!足を噛まれた。」
ゾンビに足を噛まれ、身動きが出来なくなっているようだ。
グハァッ!
その直後、足を噛まれたその男は大量に吐血し意識を失った。
「おい!大丈夫かおっさん!!」
筐体のすき間から出て駆け寄ろうとするタケルを少佐が腕で制する。
「何すんだよ少佐!」
「見ろ!」
すると意識を失ったその男は動けなかったはずの足でフラフラと立ち上がり、ゾンビと化した血の気のない凶悪な顔でタケルに襲い掛かろうと向ってきた。
「うわぁー」
とっさに少佐がタケルの前に出てガンホルダーから至近距離用のベレッタPx4を素早く抜き取りゾンビの目に向って撃つ。
光線銃の光でゾンビの動きが一瞬止まり、その隙をついてゾンビ化したその男から逃れる。
しかし、派手に動いたため周囲にいるゾンビ数体に気づかれた。
「見つかったぞ!」
いち早く気づいたメガネが少佐に状況を伝えると少佐はアーミーベストから缶状の手榴弾を取り出し、口でピンを抜きこちらに向ってくるゾンビ数体に向って投げつけた。
床に落ちると大量の煙が出てあたり一面が真っ白になり3人は近くの筐体に移動。
息をじっとひそめる。
タケルらを見失ったゾンビ数体は方々に散り無秩序に彷徨いはじめた。
「………何とかやり過ごせたようだな」
「ごめん、少佐」
「大丈夫かタケル。援護助かったぜメガネ」
銃を持った時の少佐は本当にたくましい。
「まだまだ出口には遠いが大分近づいたな」
その時だった。
「キャー!!」
女の子の叫び声が聞こえた。
声の先を目で辿ると数ブロック先にゾンビに囲まれ腰を抜かしてしゃがみ込んでいる少女がいる。
放っておけば10秒以内に少女はゾンビの群れに無残に食い殺されるだろう。
とっさに3人は目を合わせる。
「…かなり危険だが、男として少女を見捨てるわけにはいかないだろう」
少佐の言葉にタケルとメガネはごくりと唾を飲み込み、コクリとうなずく。
「よし、これを使え。奴らの目を狙うんだ。射程距離は1m以内。奴らの目が光で眩んでるうちに少女を奪還する」
少佐はサブマシンガンMP5Kをタケルに、ベレッタPx4をメガネに渡す。
「いくぞ!」
グォオオオオオ
ガァァァアア
3人は一斉に飛び出し襲い掛かってくるゾンビをかわしながら少女の元へ駆け寄る。
少佐は背中に背負っていた長距離用ライフルM60をまるで映画のランボーのようにぶん回しながらゾンビの目に次々と狙撃。
タケル、メガネが援護射撃する。
少女を取り囲むゾンビの集団にたどり着くと少佐は銃の柄の部分でゾンビをなぎ払い四方に手榴弾を投げつけ少女の周りに煙幕の結界が張られた。
「立てるか?」
少佐は怯える少女に手を差し伸べ、起き上がらせる。
「隠れるぞ!」
ひとつの筐体のすき間に4人全員が隠れるのは不可能なため少佐の合図と共にタケルとメガネ、少佐と少女はそれぞれ近くの筐体のすき間に身を潜めた。
「ハァ、ハァ…大丈夫か?お嬢ちゃん」
動揺しながらも少女はこくりとうなずく。
「そうか、良かった。お嬢ちゃん名前は?」
「…詩音」
詩音(しおん)と名乗る幼い少女は兄に連れられてこの会場に来たと言い、その兄は詩音を守るため盾となりゾンビに殺られたらしい。
ゾンビの荒々しい息が聞こえる。すぐ近くにいるようだ。
その時、少佐のガラケーがメールを受信した。
メガネからだった。
隣の筐体にいるが、ゾンビに気づかれるため会話はできない。
メールには会場の図面のURLが添付されていた。
少佐は脱出ルートの返信をメガネに送る。
会場を抜け通路に出ても大量のゾンビがいる可能性は高い。しかも通路は隠れる場所がないためかなり危険である。
駐車場に一番近く直接外に出れる非常口から脱出し、車を確保して逃走する方法がベストと考えた。
『了解』
メガネからの返信が届く。
4人は数時間かけ、これまでのようにゾンビに気づかれないよう少しずつ筐体の移動を繰り返しついに非常口の近くまでたどり着いた。
が、最悪なことにそこはまるで4人の脱出を頑なに拒むかのようにゾンビが密集していた。
極度の緊張感の中、数時間を費やした4人の精神は疲弊しきっている。とくにまだ12歳くらいの少女である詩音はおでこから汗をびっしょりかき精神、体力共に限界が近いのは明らかだった。
(これ以上時間はかけられないな。出口まで一気に駆け抜けるしかないか)
少佐は隣の筐体にいるメガネにメールを打つ。
『ここから一気に駆け抜ける。俺が囮(おとり)になって奴らの注意をそらすから2人はその隙にこの子を連れて非常口から出て駐車場に向って走るんだ。みんなが外に出たら俺もすぐに行く。外にどれくらいゾンビがいるか分からないから気をつけろ!』
『…了解。幸運を祈る』
メガネからの返信を確認後、少佐はミッションの内容を少女に説明し深く深呼吸する。
ウォォォォ!!!!!
少佐は筐体から飛び出し大声を上げながら非常口周辺にいる反対の方向に走りゾンビを引き付ける。
3人は非常口にゾンビがいなくなった事を確認すると非常口に向って全力で走った。
ドアの前に着くとまずタケルが外にいるゾンビに応戦するため銃を構えその後メガネがドアを開ける。詩音はメガネの背後に隠れている。
おりゃぁぁぁあああああ!!!!!!
タケルがMP5Kをゾンビの目に向って乱射し駐車場に向って走る。メガネは詩音の手を握りながらタケルの後を追って走る。
「畜生、バッテリー切れか!」
囮(おとり)となった少佐は20体くらいのゾンビを相手に的確な銃さばきでゾンビの動きを封じていたが撃ちすぎのためついにバッテリーが切れる。
アーミーベストから最後の武器となる護身用のスタンガンを取り出し応戦。
タケルらの後を追い駐車場に走る。
幸いなことに駐車場にはまだゾンビはほとんどいなかった。
少佐を追ってくる大量のゾンビを除いては。
「少佐!こっちだ!!」
タケルが叫ぶ。
1台のバンの前にいるタケルらの元に少佐が駆け寄ると、滑らかな手つきでEDC(Everyday Carryの略)からピッキングツールを取り出し持ち前の器用さでドアのロックを解除する。
4人は車に乗り込み、今度はエンジンの鍵穴にピッキングツールを差し込む。
ゾンビの集団が近づいてくる。
「ヤバイ!囲まれるぞ!!」
その時エンジン音がうなりを上げた。
「よし!」
少佐はアクセルを吹かし、タイヤをスピンさせながら勢いよく発車する。
「・・・・はぁ~危なかったなぁ」
張り詰めていた緊張の糸がほぐれ車内に安堵の空気がたちこめる。
だが詩音は助手席で下を向いたまま青ざめた顔で大量の冷や汗を流している。
そして長い髪で覆われたその首筋には小さな引っかき傷があり、うっすらと血が滲んでいた。。。
終
ガンマニアックス2 前編
「あ、あの…注文してたM60届いてますか?」
少佐がモジモジと小声で店員に注文の品が届いているか確認する。
「はい、届いてますよ」
店員のおじさんがニッコリ笑いながら大きな銃を少佐に渡した。
少佐の目がカッと見開き、四方に銃の標準を構える。
「うわっ!あぶねー」
タケルが反射的に手を頭にしてよけるようにかがみこむ。
「安心しろ。光線銃だ」
少佐は普段は心配性で気弱なタイプだが、銃を持つと精悍(せいかん)で男らしい性格に豹変する。
「ったく、ほんと銃持つとキャラ変わるよなー。一体そんなバカでかい銃何に使うんだよ」
「コレさ!」
少佐はおもちゃ屋の店内に張ってある1枚のポスターに素早く銃口の焦点を合わせる。
「優勝200万!すげーな」
メガネは賞金に驚くタケルの横でタブレットを使い検索を始める。
「ガンマニアックス2…なるほど」
Gun Maniax2 wiki
Gun Maniax2はゲームメーカー【ロナミ】とモデルガンメーカー【東京カクイ】が共同開発したアーケード向けガンシューティングゲーム。
この作品はガンマニアに的を絞った作品で筐体(きょうたい)に銃は装着されておらず、自前の光線銃で戦う。(設置店にてレンタルも対応。)
ゲームは2つの形式があり、NPC(コンピュータ)と戦うスコアモードと筐体のネットワークを通じて人間同士が直接対戦を行うデュエルモードがある。
多様なモデルの光線銃、改造パーツが販売されておりプレイする銃本体、および改造の性能がゲーム内に直接反映されることがガンマニアの間で人気を博している。
上位にランクインするためにはシューティングの腕はもちろん、そのフィールドに適した銃のセレクト、性能を上げるための改造(チューンアップ)は欠かせない。
「…そして今回のイベントはユーザー数200万人を突破した記念に行うイベントらしい」
メガネが集積したデータから概要を説明する。
「この大会は【大規模なデュエルモード】で画面に写る敵は全員参加者の人間だ。会場に千台の筐体を設置し、ネットワークを通じすべての筐体をリンクさせて参加者同士が一斉に撃ち合うんだ」
「そして生き残った最後の1人が優勝ってわけさ」
少佐がこの大会の内容を補足する。
「応援行くから優勝したら焼肉おごってくれよな!な、メガネ」
「そうだな」
「ああ。任せとけ!」
少佐が右手を突き出しサムズアップ(親指を立てる)した。
つづく
サクラノ扉(ゲート)後編
午前10時02分
扉(ゲート)が解放されてから10時間が経過。
奏
『私の花粉症、どうやったら直るかな?』
「よし、ここまで来たぞ」
このゲームのラストを飾るメインヒロインの奏(かなで)編。今まで解析したデータを頼りに攻略目安の最短時間である10時間でラストシーンまで積んだメガネの前に最後の選択肢が展開する。
この3つの選択肢からひとつを選び、その選択によってそれぞれのエンディングを迎えることになる。
メガネが目指すのはもちろん2人が結ばれる真のハッピーエンド。
「1と2は選択済みだ。残るは3しかない」
花粉に悩む内気な少女がやっと主人公に心を開きかけ、どうすれば直るか真剣に答えを求めるこのシーンで3を選択するのはかなり躊躇(ちゅうちょ)される。
しかし残された選択は3しかない。
きっと驚きの展開が待っているのだろう。
「すまん、奏」
メガネはためらいながら3を選択する。
『・・・ひどい、ひどいよメガネくん』
奏は目に涙を浮かべ、メガネの前から去りそれから奏と会うことは2度となかった。
~Fin~
「クッ、、、、どうなっている?」
「全てのパターンは解析した。去年このシーンの2までを選択し、残された最後の選択はこの3しか残っていないはず。なぜだ!?」
すでに10時間が経過している。やり直せるのはあと1回。しかし今の選択で全ての手は尽くしている。他に選択の余地はない。
今までのエンディングも先ほどのバッドエンディングや中途半端なエンディングでどれも真のエンディングと呼べるものではなかった。
クリアに通常の数十倍時間がかかる手の込んだゲーム。
道理的に考えてもこれだけの大作を作り、引退作品として発表した懇親(こんしん)のゲームのエンディングがこれで終わりでは作った本人がまず納得しないだろう。
真のエンディングは別にある。
だが何かが心にひっかかる。何かがおかしい。
そもそもなぜ、人気絶頂を極めていた苗場悠はこのゲームを最後にこの業界から引退したのか?
そもそもなぜ、今まで大手ゲームメーカーから出していた苗場悠がこのゲームだけ個人で発表したのか?
メガネはその真意を確かめるべく更新が止まった作者である苗場悠のサイトに飛んだ。
サクラノ扉(ゲート)特設サイト
「このゲームはただのゲームではない。私の全人生を賭けた正真正銘の恋愛だ。私以外の何者にもこのゲームはクリアできまい」
(・・・・・私以外の何者にも?)
「まさか!」
メガネはその真意を理解した。
このゲームはサイトに記してある通り、ある1人の主人公以外はクリアできないゲームだったのだ。
「最初の主人公の名前を設定する段階で、【悠】にしない限り真の攻略は不可能。そんなトラップだったとはな」
仮に名前を【悠】にして最初からやり直すにしても、メインヒロインの登場するこのステージにたどり着くまでは全てのサブヒロインの攻略を最初からやり直す必要がある。
残り10数時間でクリアすることは到底不可能。
それ以前にメガネは自分の名前でクリアすること以外本望ではない。
「苗場悠。奏がお前の理想の美少女という訳か。だから自分だけのものにしたかった。だがお前は誰にもクリアされない暗い闇に閉ざされた奏の気持ちを考えたことがあるのか?そんなものはお前の一方的な束縛以外の何物でもない!」
「残り13時間と20分か。。。」
メガネは何十にも偽装されたプログラムを紐解き、その隠しリミッターの解除に成功。
そして最後の選択肢の場面にたどり着く。
奏
『私の花粉症、どうやったら直るかな?』
1.病院に行ったらいいんじゃないかな?
2.薬を飲んだ方がいいと思うけど?
3.鼻にねぎでも突っ込んどけば?
「3はない。1か?2か?」
「・・・私なら、コレだ!!」
3月26日 23時59分57秒。
ついにメガネは10年間、誰もクリアできなかったゲームの完全攻略に成功する。
その後メガネは、サクラノ扉(ゲート)攻略wikiに隠しリミッターを解除したパッチを配布。
その話題は瞬く(またたく)間にギャルゲーマーの間で話題となり、ここ10年で1番盛上りを見せるゲームとして人気が再燃。
ユーザーより激しいバッシングを受けた製作者、苗場悠は長年更新が止まっていた公式ページでコメントを更新した。
サクラノ扉(ゲート)をプレイして下さった皆さまへ
奏は自分の思い描く究極の美少女でした。皆を楽しませるためのゲームデザイナーでありながら、自分のものだけにしたいという欲求を満たすため自分の名前以外ではクリアできないようにしました。
この秘密を守るため当プロジェクトは個人名義で発表しました。そして自分にはこれ以上の理想のキャラは描けないと判断し、ギャルゲー界からの引退を決意しました。
攻略されたのは悔しい気持ちもうれしい気持ちも半々です。
苗場悠
ーエピローグー
蓮場学園から続く長い下り坂。
昨日まで満開に色づいていた桜は、はらはらと舞い今年に新しい出会いと別れを告げているようだ。
花びらが舞い踊る桜並木を眺めながらメガネがつぶやいた。
「今までありがとう奏。私も新しい出会いを探すとしよう」
終
サクラノ扉(ゲート)前編
タケルらの通う蓮場学園から続く長い下り坂。
両脇には桜の木が立ち並びほぼ満開に色づいている。
花びらが舞い踊る桜並木を眺めながらメガネがつぶやいた。
「・・・今年で10年目か」
「どーしたんだよメガネ。神妙な顔して」
桜並木を真剣なまなざしで見つめるメガネの様子に何かを感じたタケルが問う。
「10年間、クリアできずにいるゲームがある」
メガネは桜並木をじっと見つめたままそのゲームについて静かに語りはじめた。
恋愛シミュレーションゲーム、いわゆる【ギャルゲー】に造詣(ぞうけい)が深いメガネ。その腕前から【落とし神】と呼ばれる彼は、ギャルゲーの登場人物である2次元の女子をこよなく愛している。
メジャーなタイトルのみならず世間からクソゲーと呼ばれるマニアックなタイトルまでありとあらゆるギャルゲーを攻略してきたメガネ。
彼の言う攻略とは100%。全てのヒロイン、全てのルートを完全に攻略した状態を指す。
そんなメガネでも未だ攻略できていないタイトル
それが。。。
【サクラノ扉(ゲート)】
ギャルゲー界の巨匠、苗場悠が開発したそのゲームは究極のドS無理ゲーと呼ばれ、攻略があまりに困難なため、発売開始から10年経過した現在でもフルコンプした者は未だいない。
究極の泣きゲー(ユーザー泣かせの意)としてハードコアユーザーに挑戦状を叩き付けたといわれる本作。
作者はこのゲームを最後としてギャルゲー界から引退。
あまりに無理な条件、無理な設定。
誰もがあきらめ、このゲームから去っていった。
メガネというただ1人の男を除いて。
【トゥルールート】と呼ばれる本当のエンディングは全てのサブヒロインを攻略した上でその年桜が満開を迎えるたった1日、24時間だけ開放される。
セーブなしの一発勝負。
トゥルールートに登場するヒロインの性格はもの静かで感情の起伏をあまり表に出さないタイプ。その上、花粉症という設定で常時マスクをしている為、表情が読み取りづらく、分岐点の判断が非常に困難を極める。
原作者いわく、最短10時間でクリアできると公式ページには記してあるが選択肢次第で即死エンドもあるため実質挑戦できるのは2回程度。
選択肢・コマンド入力・探索と様々なアドベンチャー要素を詰め込んだボリュームたっぷりのゲーム内容。
3年かけ全サブキャラを攻略し、トゥルールートを始めて7年。
綱渡りのような会話をヒロインと交わしながら去年、クリア寸前までいきかけたが最後の最後でヒロインの求める一言でミスを犯しクリアできなかったという。
このゲームについてメガネはこう語っている。
「例えて言うならそうだな、目隠しをした状態で高度な外科手術を成功させるくらいの難易度といったところか」
そして、今年の桜は今日がほぼ満開。
おそらく今夜、扉(ゲート)は解放される。
―深夜0時―
静寂に包まれた月明かりのみが灯る部屋の中
メガネは静かにPCの前に座り、サクラノ扉を起動する。
扉(ゲート)は開かれていた。
「今年こそ、私はこのゲームを攻略する」
「落とし神の名にかけて!」
美少女に命を賭けた孤高なユーザーの熱き24時間が今始まろうとしている。。。
つづく
決闘(デュエル)後編
タケルVS時政。
プライドと欲望を賭けた熱きデュエルは終盤に差し掛かっていた。
「行くぞ!ボクの必殺コンボ、プラチナム・エクスペンシブ!!」
金にモノを言わせレアディスクをふんだんに織り交ぜた時政の超豪華なプレイが炸裂。
オーディエンスから割れんばかりの歓声が沸き起こり、デュエル審判システム【ジャッジメント】が時政のスコアを叩きだす。
ポイントの差は大きく開き圧倒的に時政の優勢。
「ヤバいよ!メガネくん、このままだとタケルくんが負けちゃうよ」
オーディエンスとして会場からタケルを見守る少佐が困惑しメガネに戦況を問う。
「あのポイント差を次のラウンドだけで埋めるのは至難の技。タケル、どう出るつもりだ。。。」
メガネも固唾(かたず)を呑んで場面を見守るしかなかった。
「どーだ!参ったかタケル。このポイント差を追い越すのは絶対無理なんだからな!」
崖っぷちと誰もが疑わない状況でタケルから思いもよらない言葉(スペル)が出る。
「フフフ、今お前は致命的なミスを冒した。もはやオレに勝つことは不可能だ」
タケルは怪しげな含み笑いを時政に投げかける。
「な、何だと?ボクが何のミスをしたってゆうんだ。ポイントの差は歴然だし、オーディエンスだってみんな盛り上がってるじゃないか!」
「これからジワジワ出てくるのさ、お前が冒したミスがな。だがそれに気づいた時にはもう遅い!」
タケルは絶対の勝利を確信したような強い眼差しで、時政を指差す。
「…い、一体ボクは何のミスを冒したんだ?」
タケルの放った謎の一言で時政は動揺。プレイにムラが出始め調子が崩れはじめる。そこをタケルがついて巻き返した。
「メッキが剥がれ始めたようだな。行くぜオレのターン!」
うおぉぉーーーーー!!
MC『それでは判定です!』
ジャッジメントが最終審判を下す。
MC『WINNER タケル!!』
場内から歓声が沸き起こる。
「約束だ。琴原さゆみの生写真を渡してもらおうか」
ぐっ…
時政は奥歯にモノか挟まったような苦い表情でタケルに生写真を渡す。
「タケル!教えてくれ。あの時一体ボクは何のミスを冒したんだ?」
「・・・・ひとつだけヒントをやるよ」
「お前は”自分の弱い心に負けた”んだ」
ーエピローグー
木六本ヒルズの最上階にある時政のオフィス。
時政は今夜のデュエルを録画した動画を入念に確認していた。
(ルール上では何の問題もない。そもそも違反をしたならジャッジメントが警告を出すはずだ。…では一体なぜボクはあの圧倒的な優勢から負けたんだ?)
時政はタケルが最後に言っていた言葉を思いだしハッとする。
「ま…まさか、あれはただボクを動揺させる為に言った何の根拠もないハッタリ?……ブラフだったのか!?」
「あのままボクは普通にデュエルしていたら勝てた・・・」
時政の肩がワナワナと震える。
「デュエルキングダムでは決勝前に親切なフリをしてボクに近づき下剤入りのジュースを飲ませて棄権させ優勝を手にし、今回はブラフで勝利だって?」
時政は優勢だったにも関わらずタケルのブラフにまんまとひっかかり負けた自分の不甲斐なさと悔しさから目に涙を溜めながら叫んだ。
「タケル・・・・お前だけは絶対に許さないんだからな!」
つづく